≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
8.ばらつきの少ない引張せん断試験片の作製方法
8.3 試験片の作製方法
2)接着剤の塗布、貼り合せ
⑤まず、図8-5の貼り合せ治具を、両面テープなどで作業台に固定します。
⑥テフロン板を取り付けた被着材の接着部に、接着剤を塗布します。
接着層の厚さ調整を行う場合は、厚さ調整用のガラスビーズや樹脂ビーズなどを接着剤の上に少量散布して下さい。(あらかじめビーズを添加した接着剤を塗布しても結構です。ビーズの添加量は、接着剤重量の5%以下程度で十分です。)
⑦貼り合せ作業
図8-10に示すように、接着剤が塗布された被着材を、貼り合せ治具の左側にのせ、被着体ガイドに押し当てて位置決めします。
図8-10 接着剤を塗布した被着材を、貼り合せ治具の左側にのせ、被着体ガイドに押し当てて位置決めする
次に、図8-11に示すように、接着剤が塗布されていないテフロン板付きの被着材を、接着剤が塗布されている被着材のテフロン板端部に押し当てるようにして、ゆっくりと治具上にのせます。
図8-11 2枚の被着材を貼り合わせる(テフロン板固定用のWクリップは図示省略)
⑧クリップによる圧締
・図8-12に示すように、両方の被着材を左手の親指と人差し指で押さえながら、テフロンシートをはさんだWクリップ(小)【3】で重ね合わせ部を圧締します。(クリップ【1】【2】は④で取り付けたテフロン板固定用です)
・クリップは十分に奥まで押し込んで下さい。押し込みが甘いと、側面に接着剤がはみ出します。
図8-12 テフロンシートをはさんだWクリップ(小)で重ね合わせ部を圧締する
・図8-13に示すように、クリップの取り付け位置は、3カ所に別れているWクリップの先端部の両サイド部の中央が、ラップ端部に来るように位置関係に十分に注意してください。クリップが左右にずれると、接着部の厚さが傾く恐れがあります。
図8-13 3カ所に別れているWクリップの先端部の両サイド部の中央が、ラップ端部に来るように位置関係に十分に注意して圧締する
・次に、図8-14に示すように、クリップ【3】の両側に、クリップ【4】【5】を取り付けます。この時、クリップ【4】【5】は、クリップ【3】のテフロンシートの上から、クリップ【3】にできるだけ近づけて取り付けます。
図8-14 クリップ【4】,【5】を、クリップ【3】のテフロンシートの上から、クリップ【3】に接するように取り付ける
・次に、テフロン板を固定していたクリップ【1】【2】を一旦外します。
・次に、図8-15に示すように、テフロンシートを挟んだクリップ【6】を、クリップ【3】と同様に取り付けます。
・最後に、クリップ【7】【8】を、クリップ【4】【5】と同様に取り付けます。
図8-15 テフロンシートを挟んだクリップ【6】と、クリップ【7】,【8】を取り付ける
⑨図8-15に示すように、両被着材を両方の親指で治具のガイド部にしっかりと押しつけて試験片の曲がりを矯正します。
4)接着剤の硬化
5)固定の解除
硬化が終わったら全てのクリップを外して、テフロンシートを外します。
これで終了です。はみ出し部の除去は不要です。
できあがった試験片の引張りせん断試験を行うときの注意事項を以下に示します。
できあがった試験片の両端に、図8-1、図8-16に示すように、引張り時の軸心を出すために支持体を接着剤や両面テープなどで取り付けます。支持体の長さは38mm、幅は25mmです。二枚の被着材の厚さが異なる場合は、被着材の厚さと同じ板厚の当て板を取り付けます。
図8-16 支持体の取り付け方とチャック間距離
支持体が取り付けられていれば、チャック時の固定部端間距離は111.5mmに決まりますが、支持体を取り付けずにチャック刃をずらすなどで取り付ける場合もあります。その場合は、図8-16に示すように、チャック間距離が111.5mmとなるようにしてください。チャック間距離が異なると、引張ったときの試験片の曲がり方や、被着材の伸び量の変化に伴う接着部の引張速度が変化するため、強度ばらつきの元となります。
インストロン型の引張試験機では、片方のチャックは固定されていて、もう一方のチャックはユニバーサルジョイントで自由に動くようになっています。チャックは、可動側のチャックを先に締め付けて、固定側のチャックは後から締め付けます。これは、固定側を先に締め付けると、可動側のチャックを締めるときに、試験片に力を加えてダメージを与える恐れがあるためです。
試験片の取り付け位置は、チャックの奥行き方向にも注意して、チャック幅(奥行き)の中央にまっすぐに取り付けます。
引張速度によって接着強度は変化します。せん断試験では、一般に、低速では低強度、高速では高強度の結果となります。これは、接着剤が<粘弾性>という性質を有しているためです。引張りせん断試験における引張速度の規定は規格によっても異なっていますが、10mm/minや5mm/minで行われるのが一般的です。ただ、私は、時間はかかりますが、ほとんどの試験を1mm/minで行っていました。これは、ゆっくり引張ると、破断荷重が低めに出るため安全側のデーターが得られること、破壊に至るまでの時間が長いので、途中で生じる試験片の変形の状態や破壊開始時の状況など、試験の途中で種々の情報が得られるためです。
接着剤が有機物の場合は、測定時の接着部の温度で接着強度は変化します。測定時に試験片が所定の温度になっていることを確認してください。
今回は、ばらつきの少ない引張せん断試験片の作製方法と測定時の注意事項について説明しました。
次回は、<第6回>で、「界面破壊を防ぐための方法については、追々説明していきます」と述べた内容について説明したいと思います。
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