≪接着・原賀塾≫

講師:(株)原賀接着技術コンサルタント

首席コンサルタント、工学博士

原賀康介

3.<高信頼性・高品質接着>とは

 一般に、(1)接着特性(強度など)に優れ、(2)耐久性にも優れた接着ができていれば、信頼性に優れた接着ができていると考えられがちです。しかし、それだけでは<高信頼性・高品質接着>とは言えません。それに、(3)ばらつきが小さいこと、(4)不良率が低いことが必要です。さらに、(5)生産性やコスト的にも優れていることも重要です。これらの5つの条件が満足されて初めて<高信頼性・高品質>と言うことができます。特に重要なのは(3)と(4)です。

3-1 高信頼性・高品質接着

4.<高信頼性・高品質接着>を達成するためには

 良い接着剤を選んで使えば<高信頼性・高品質接着>が達成できるというものではありません。どんなに良い接着剤を使っても、接着される部品の材質や表面の状態、接着部の構造、硬化のさせ方、加圧・固定の仕方、接着層の厚さ、その他多くの要因でできあがった接着部の性能は大きく変化します。

 そこで、接着特性に影響する諸因子を制御して最適化しなければなりません。この最適化は設計段階で行わねばなりません。接着設計がうまく出来ていれば、実際の接着組立て工程での管理は非常に楽になり、安定した品質の製品を効率よく生産することができます。逆に、接着設計がうまく出来ていなければ、組立現場では無駄な作業が増え、安定した品質や効率的生産に支障が生じることとなります。即ち、「接着組立品の品質、生産性は接着設計で決まる」と言えます。

接着の設計段階では、機能設計、材料設計、構造設計、工程設計、設備設計、品質設計などの要素技術について検討していかなければなりません。これらの要素技術は相互に関係していて、いずれかの要素技術の中で、何かの条件が変れば他の要素にも影響を及ぼします。設計段階でこれらの要素技術を総合して最適化していく技術を<接着設計技術>と呼んでいます。接着設計の段階では、各要素技術を総合して、接着製品の性能に関わる構造や材料、生産工程ごとの<最適条件と許容範囲>を明確に決定することが求められます。

4-1 接着設計技術と要素技術

接着組立終了後に、その接着部の健全性を非破壊で検査することは容易ではありません。また、接着の不具合が見つかっても、部品を傷つけずに分解・修復することは容易ではありません。よって、完成後の検査や修復作業をなくして常に安定した高品質な接着組立を行なわねばならず、接着組立の各工程での適切な作業管理と検査が重要ということになります。

 接着剤という液体の化学物質を用いる生産段階では、手順通りに組立てていけば要求された性能を満足するものが得られるというものではありません。接着剤や部品の状態、作業場の温度・湿度、設備の状態などは時々刻々と変化しています。ですから、生産段階においては、部品管理、材料管理、工程管理、設備管理、検査・品質管理が必要となります。これらの管理も独立したものではなく相互に影響するので、要素技術として同時に検討を進めていくことが必要になります。これらの生産段階での要素技術の集まりを<接着生産技術>と呼んでいます。

 即ち、<接着生産技術>とは、部品の状態、接着剤、作業環境などが時々刻々と変化する中で、その変化を的確に捉えて、「接着設計」で規定された<最適条件と許容範囲>になるように、組立現場において実施される<プロセス最適化と検査の技術>ということです。

  注)<接着生産技術>は、従来の書物等で<接着管理技術>と記してきたものを改名したものです。

4-2 接着生産技術と要素技術

 <接着設計技術>と<接着生産技術>は『車の両輪』であり、開発段階から関係する全部門が開発に参加して、性能や機能と同時に、作りやすさや品質も考慮して同時進行でコンカレントに進める事が重要です。開発に当たっては、技術者の連携はもちろんですが、これまでに蓄積した経験やノウハウ、情報、データ、理論などに基づいて論理的に進めましょう。要素技術の中には社内に十分な人材がいない場合も多々あります。その場合は、社外の関連企業やコンサルタントに協力を仰ぐことも必要です。

図4-3 接着設計技術と接着生産技術は車の両輪

 

 次回からは、<接着設計技術>、<接着生産技術>の各要素技術での具体的な検討内容について述べたいと思います。

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