≪接着・原賀塾≫

講師:(株)原賀接着技術コンサルタント

首席コンサルタント、工学博士

原賀康介

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11. 接着の内部応力

11.8 内部応力に影響する諸要因

 

(5)接着剤のはみ出し部

 11-32は、平面パネルの裏面に、断面がハット型の補強材を、補強材のつばの部分で接着したものの図です。接着剤の塗布量が多いと、つば部の接着面の両側に接着剤がはみ出します。硬化収縮力や熱収縮力により、つば部分の接着部には、パネルの板厚が薄い場合はしわが生じます。はみ出した接着剤は、接着部に較べて量が多いため、硬化収縮や熱収縮に伴って大きな力が生じ、パネル材をはみ出し部の方に引張ります。このため、接着剤のはみ出し部に沿って、パネル材が折れ曲がったような筋が生じてしまいます。

 

 接着剤のはみ出し量が多いほど、硬化収縮力や熱収縮力は大きくなるので、意匠性や表面精度が求められる場合は、はみ出しは極力少なくしなければなりません。ハット形補強材の場合は、外側にはみ出した接着剤は、硬化前に、掻き取ったり拭き取ることができますが、つば部の内側にはみ出した接着剤は除去できないので、特に注意が必要です。断面がコの字型やL字型など、はみ出し部が可視化できて、はみ出している場合には除去ができる補強材に変えることも考えましょう。

11-32 接着剤のはみ出し部による部品の変形

 

(6)接着剤の硬化

1)短時間硬化

 11-33は、図11-26と同様のガラスプリズムの底面を、紫外線硬化型接着剤で接着する場合で、紫外線の照射強度を変化させた場合の反射面の歪み量を示したものです。グラフのは、反射面の下半分、は上半分の歪み量です。この結果から、強い光で短時間で硬化させると、弱い光でゆっくりと硬化させる場合に較べて、歪み量が大きいことがわかります。弱い光でゆっくりと硬化させると、硬化収縮応力が発生しながら軟らかい固体から硬い固体へとゆっくりと変化していくので、発生した硬化収縮応力によって、応力緩和も同時に生じます。しかし、強い光で短時間に硬化させると、応力緩和をする時間がとれないため、歪みが大きくなるということです。

紫外線照射の条件によっては、部品が加温される場合もあります。図中のは、照射時に部品が昇温した場合の反射面の下半分の歪み量です。部品が昇温しない場合に較べて、歪み量が非常に大きくなっています。これは、硬化収縮応力だけでなく、加熱から冷却段階で生じた熱収縮応力がプラスされるためです。

出典)寺本和良、西川哲也、原賀康介;“接着による光学歪に及ぼす接着条件の影響”,日本接着協会誌, V0l.25, No.11, P.7 (1989).

図11-33 UV硬化型接着剤の短時間硬化による歪みの発生

 

紫外線硬化型接着剤に限らず、エポキシ系接着剤やアクリル系接着剤などでも、短時間での急速硬化は歪みの増大に繋がります。歪みが問題となる部品の接着では、ゆっくりと応力緩和をさせながら硬化することが重要です。ただ、ゆっくりと硬化させると時間がかかるという問題があります。そのような場合は、接着剤の弾性率があまり高くない状態(108Pa程度)までは急速に硬化しても内部応力はほとんど生じないので、急速硬化→ゆっくり硬化と二段階に硬化条件を変えると、ある程度の時間短縮が可能となります。

 

2)急速加熱、急速冷却

  11-34は、のように室温で部品を貼り合わせた後、短時間で硬化させるために、のように、貼り合わせたものを高温雰囲気に投入したり、高温で硬化後に、のように、室温まで急速に冷却する場合の部品の変形による接着欠陥の発生を示したものです。

図中のは、貼り合わせた部品の室温での状態で接着剤は未硬化の状態です。

この部品が、硬化のために急激に加熱されると、のように、部品の表面は短時間で高温になりますが、接着部付近には熱がまだ伝わっていないため、部品の内部には大きな温度勾配が生じ、部品が太鼓状に反ることになります。②の状態では、中央部の接着層の厚さは厚くなります。厚くなった部分に周囲の接着剤が流れ込めば良いのですが、多くの場合は周囲から空気を引き込んで接着欠陥が生じることとなります。その後、部品全体が高温になると、のように、接着剤の中央部には空気を引き込んだ状態のまま部品の変形はなくなり、硬化します。

冷却段階では、急激な冷却を行うと、部品の表面付近は収縮するため、のように、部品は鼓状に反ることになります。④の状態では、部品の端部付近の接着剤は反った部品に引張られた状態になっており、界面での結合力が弱ければ界面ではく離し、接着剤の破断伸び率が部品の反り量以下であれば接着剤の内部で破壊が生じます。

 その後、全体が室温に戻ると、①のように、元の状態に戻ります。

 

図11-34 急速加熱、急速冷却での部品の変形による接着欠陥の発生

 

ここで注意が必要なのは、①や④のように、加熱や冷却処理が終了した部品の外観をみても、②や④の段階で生じた接着部の欠陥や界面でのはく離や接着剤の破壊は見つからないことです。良品としてフィールドに出て行くと、やがては思わぬトラブルを引き起こしかねません。接着層の厚さ、加熱や冷却速度などを最適化しておくことが必要です。

 

 (7)接着剤の後硬化

 11-35は、薄い金属板の上に接着剤(二液室温硬化型エポキシ系接着剤)を塗布して硬化させたときの、金属板のたわみ量から求めた内部応力の変化を示したものです。グラフの縦軸は、下に行くほど内部応力が大きく表示されています。横軸は温度です。

 まず、室温で硬化させると、接着剤の硬化収縮によって硬化収縮応力が発生して金属板がたわみます(ab)。その後、50℃で後硬化させるために昇温していくと、37℃付近までは、金属板より接着剤の線膨張係数が大きいため、収縮していた接着剤が大きく膨張して、たわみ量(内部応力)は減少していきます(bc)。ところが、37℃付近以上の温度になると再び内部応力(たわみ量)が大きくなっています(cd)。これは、室温硬化型接着剤といえども室温では完全に硬化しておらず、残っていた未硬化部分が熱によって硬化していくためです。このような未硬化部分が熱によって硬化していく現象を<後硬化(アフターキュア)>といいます。後硬化は50℃においても続いており(de)、e点の内部応力はb点よりかなり大きくなっています。

 次に、50℃から室温まで冷却すると(ef)、接着剤と金属板の線膨張係数差によって熱収縮応力が生じるため、内部応力(たわみ量)はさらに大きくなります。

 室温まで戻った状態で放置すると、内部応力は減少しています(fg)。この内部応力の減少は、応力緩和によるものです。なお、応力緩和は室温のみで生じるのではなく、硬化収縮応力が生じていれば起こるので、afの全ての時点でも生じています。

出典)春名一志、寺本和良、原賀康介、月舘隆二:“エポキシ系接着剤硬化過程における残留応力発生挙動”,日本接着学会誌, V0l.36, No.9, P.39 (2000).

図11-35 接着剤の後硬化による内部応力の増加(二液室温硬化型エポキシ系接着剤)

 

 11-36は、図11-35で用いた接着剤の貯蔵弾性率の温度特性を動的粘弾性測定装置(DMA)で昇温させながら測定した結果です。20℃で硬化させたものは、40℃付近から軟らかくなり、100℃付近から再び硬くなっています。これは、20℃硬化では十分に硬化し切れておらず、未硬化部分が残っていて、未硬化部分が熱によって後硬化したためです。20℃で硬化させた後に50℃で硬化させた場合には、十分に硬化していて、100℃付近にガラス転移温度(Tg)があることがわかります。 

出典)春名一志、寺本和良、原賀康介、月舘隆二:“エポキシ系接着剤硬化過程における残留応力発生挙動”,日本接着学会誌, V0l.36, No.9, P.39 (2000).

図11-36 接着剤の後硬化による弾性率の変化(二液室温硬化型エポキシ系接着剤)

 

 このように、接着剤の未硬化部分が後加熱によって後硬化を起こすと、内部応力は増加して、部品の変形や位置ずれなどが大きくなります。フィールドに出荷後、使用中に部品の変形や位置ずれが生じるとトラブルに繋がる可能性があります。高精度が要求される部品の接着においては、出荷までに完全硬化させておくことが必要です。

 

 (8)ヒートサイクルによる応力緩和

 11-37は、図11-35g点以降に、再び50℃までの加熱と室温までの冷却を繰り返した場合の内部応力(たわみ量)の変化を追加したものです。室温から50℃までの加熱過程(gh)では、熱膨張が生じ、接着剤と金属板の線膨張係数差によって内部応力(たわみ量)が減少しています。50℃放置では、再び内部応力(たわみ量)が増加しています(hi)。これは、まだ未硬化部分が残っていたためです。50℃から室温まで冷却すると(ij)、再び内部応力(たわみ量)は増加し、室温放置中に応力緩和が生じて内部応力(たわみ量)が小さくなっています(jk)。その後、再び50℃まで加熱して室温に戻す(lmn)と、内部応力(たわみ量)の変化は前の回の温度サイクルとほぼ同様のパターンとなっています。

 このように、室温と加温を繰り返すことによって、後硬化と応力緩和による変化を収束させることができます。

出典)春名一志、寺本和良、原賀康介、月舘隆二:“エポキシ系接着剤硬化過程における残留応力発生挙動”,日本接着学会誌, V0l.36, No.9, P.39 (2000).

図11-37 ヒートサイクルによる内部応力の安定化(二液室温硬化型エポキシ系接着剤)

 

 次回は、内部応力の評価法について説明します。

 

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