≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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今回と次回は、内部応力の評価方法について説明します。
JIS K6941「紫外線硬化樹脂及び熱硬化樹脂の収縮率連続測定方法」にあるCustron((株)アクロエッジ:https://www.acroedge.co.jp/products/custron/ )を用いれば、接着剤の硬化収縮や熱収縮によって発生する力を容易に測定することができます。図11-38は、内部応力測定装置(Custron)の測定機構です。ガラス板にのせたテフロン製のリングの中に液体の接着剤を入れて、接着剤の液面に、ロードセルに接続されたプローブを接触させ、接着剤に熱や紫外線を加えて硬化させて行き、硬化の進行に伴ってプローブが接着剤に引張られる力を測定するものです。
出典)中宗憲一((株)アクロエッジ):http://www.acroedge.co.jp/wp-content/themes/canvas_tcd017_child/document/pdf/koukasyuusyuku-purezen.pdf
図11-38 内部応力測定装置(Custron)による内部応力の評価法
図11-39は、一液加熱硬化型エポキシ系接着剤での測定例です。時間の経過につれて変化をみていくと、接着剤が125℃まで昇温しても、液状からゲル状の間は引張り力は働きません。その後、接着剤が硬化していき、硬くなるにつれて引張り力が大きくなっています。ここで生じる力は硬化収縮力です。次に、125℃で硬化が終了し室温まで冷却します。冷却に伴い、引張り力が急激に増加していますが、これは、熱収縮力によるものです。
出典)中宗憲一((株)アクロエッジ):http://www.acroedge.co.jp/wp-content/themes/canvas_tcd017_child/document/pdf/koukasyuusyuku-purezen.pdf
図11-39 内部応力測定装置(Custron)による硬化過程での内部応力の測定例(一液加熱硬化型エポキシ系接着剤)
出典)中宗憲一((株)アクロエッジ):http://www.acroedge.co.jp/wp-content/themes/canvas_tcd017_child/document/pdf/koukasyuusyuku-purezen.pdf
図11-40 内部応力測定装置(Custron)による硬化過程での内部応力の測定例(UV硬化型アクリル系接着剤)
測定で得られた引張り力をプローブの面積で割れば<応力>が求まります。ただし、実際の各種部品の接着部での内部応力は、接着部の構造や寸法など種々の条件により異なるので、ここで得られた応力値は、この構造の場合の値であることに注意してください。しかしながら、数種類の接着剤の内部応力の大小の比較をするには、簡便で良い方法です。
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出典)春名一志、寺本和良、原賀康介、月舘隆二:“エポキシ系接着剤硬化過程における残留応力発生挙動”,日本接着学会誌, V0l.36, No.9, P.39 (2000).
図11-41 バイメタル法によるたわみ量の評価
図11-42は、二液室温硬化型エポキシ系接着剤の硬化過程でのたわみ量の変化の測定例です。金属板は0.1mm厚さのバネ用リン青銅板、接着剤の厚さは0.7mmm、板の長さは150mm、支点間距離は47mmです。64時間ほど20℃で硬化させると、接着剤の硬化収縮により硬化収縮力が生じて板が徐々にたわみます。次に、後硬化のために50℃の雰囲気に入れると、急激にたわみ量が減少しています。これは、接着剤と金属板の膨張によって、接着剤の線膨張係数が金属板の線膨張係数より大きいために生じたものです。その後、50℃での後硬化(アフターキュア)の進行につれて、たわみ量が増大しています。50℃での硬化終了後、20℃まで戻すと、接着剤の線膨張係数が金属板の線膨張係数より大きいために、さらにたわみ量が増加しています。室温まで戻った後に、たわみ量が小さくなっていますが、これは、<応力緩和>が生じているためです
出典)春名一志、寺本和良、原賀康介、月舘隆二:“エポキシ系接着剤硬化過程における残留応力発生挙動”,日本接着学会誌, V0l.36, No.9, P.39 (2000)
図11-42 バイメタル法による硬化過程でのたわみ量変化の測定例(二液室温硬化型エポキシ系接着剤)
図11-43は、二液室温硬化型変性アクリル接着剤(SGA)の硬化過程でのたわみ量の変化の測定例です。金属板は0.1mm厚さのバネ用リン青銅板、接着剤の厚さは0.3mmm、板の長さは130mm、支点間距離は76mmです。混合後10分ほどはほとんどたわまず、その後、硬化の進行につれて、硬化収縮力が発生して、たわみが増加していくことがわかります。
出典)春名一志、原賀康介:“接着剤の硬化収縮による内部応力を対象とした数値解析手法”,日本機械学会論文集 A編,Vol.60, No. 579, P. 2589-2594 (1994).
図11-43 バイメタル法による硬化過程でのたわみ量変化の測定例(二液室温硬化型変性アクリル系接着剤(SGA))
ここで、接着剤の弾性率がわかれば、内部応力は式11-1で計算できます。液体から硬化終了までの接着剤の弾性率の変化は、レオメーター(粘弾性測定装置)などで測定ができます。ただ、レオメーターでコーンプレートなどの回転円盤で求めた弾性率は横弾性率Gなので、縦弾性率Eに換算する必要があります。
G = E / 2 (1 + ν)
νはポアソン比ですが、ν=0.5とすると E = 3G となります。
出典)春名一志、寺本和良、原賀康介、月舘隆二:“エポキシ系接着剤硬化過程における残留応力発生挙動”, 日本接着学会誌, V0l.36, No.9, P.39 (2000).
式11-1 バイメタル法による内部応力の計算式
バイメタル法は、一見簡単そうに思えますが、次のような欠点もあり、思った以上に測定には苦労します。
・金属板の全面に均一な厚さで接着剤を塗布しなければならない。
・粘度が低く流動性のある接着剤では、接着剤が金属板の裏面に流れ込んでしまう。
・2点で金属板を支えたときに自重でたわむと、接着剤が中央部に流れて厚さが不均一になる。
・空気に触れていると硬化しない嫌気性接着剤や、空気中では表面硬化性が悪いアクリル系接着剤などでは、窒素雰囲気中での測定が必要。
・光硬化型接着剤では、全面を均一な照度で照射しなければならない。
・わずかな温度変化でもたわみ量が変化するので、測定雰囲気温度の制御を高精度に行わねばならない。
・板の表裏や切断の方法などで測定値が変化する。
また、この方法で求めた応力値がそのまま種々の構造の接着部に適用できるわけではないので、バイメタル法は、数種類の接着剤の内部応力の大小を比較するための方法と考えるのが良いでしょう。数種類の接着剤の内部応力の大小を比較するだけであれば、金属板の全面に接着剤を塗布する必要はなく、同じ寸法(幅、長さ)で同じ厚さに塗布すれば良いので、マスキングなどもできます。
接着剤硬化後、使用中の温度変化での熱応力の変化も、<第19回>の図11-11に示したように、バイメタル法で評価できます。図11-11では、二点支持での中央部のたわみ量ではなく、硬化したものを垂直に立てた状態での金属板先端の反り量を測定しています。この場合は、応力値を求めるのが目的ではなく、温度による内部応力の増減をみるのが目的のため、接着剤は、金属板の中央部付近だけに塗布しています。
この方法は、ストレインゲージを被着材の表面に貼り付けて、接着剤の内部応力によって生じる被着材表面の伸び縮みを測る方法で、実際の接着部品を用いて測定ができるので、実製品の設計や評価に有効です。
図11-44は、円筒状の部品に軸を嵌合接着したときの内部応力の評価例です。この例では、ストレインゲージ(黒色部)を円周方向と軸方向に多数貼り付けていますが、一般に、軸方向より円周方向の変化が大きいので、軸方向はなくてもよいでしょう。
出典)Y.Inaba, K.Haraga, M.Kondo : “ Evaluation of Thermal Strain on Cylindrical Bonded Joints.”, The 3rd World Congress on Adhesion and Related Phenomena (WCARP-Ⅲ, 2006/10/15-18,Beijing China).
図11-44 ストレインゲージ法による内部応力の評価(軸と円筒の嵌合接着での評価例)
図11-45は、円筒部品の円周方向のストレインゲージの伸び縮みの評価例です。【A】は、二液室温硬化型エポキシ系接着剤で、60℃10分加熱硬化後室温まで冷却した場合、【B】は、二液室温硬化型変性アクリル系接着剤(SGA)で、室温硬化のみの場合です。【A】の場合は、加熱硬化中に接着剤の硬化収縮によって円筒部品の内径が縮められるため、ゲージは縮んでいます。加熱硬化後室温まで冷却すると、熱収縮力が発生して、さらにゲージが縮められていることがわかります。60℃程度の温度でも、室温までの冷却過程で大きな応力が生じることがわかります。【B】の場合は、室温での硬化収縮によって、ゲージが縮んでいます。
出典)Y.Inaba, K.Haraga, M.Kondo : “ Evaluation of Thermal Strain on Cylindrical Bonded Joints.”, The 3rd World Congress on Adhesion and Related Phenomena (WCARP-Ⅲ, 2006/10/15-18,Beijing China).
図11-45 ストレインゲージ法による硬化過程での内部応力の測定例
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<接着・原賀塾>の掲載内容は、著作権法によって保護されており、著作権は原賀康介に帰属します。引用、転載などの際は弊社までご連絡ください。(会社内や団体・学術機関・研究機関内でのご活用に関してはこの限りではありません。) |
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