≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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1)区分的線形解析法による硬化収縮応力の算出法
区分的線形解析は、非線形挙動を示す材料の応カ解析に用いられるもので、非線形部分を複数の区間に分割して、区間毎に線形解析を行って、加算していく方法です。
接着剤の硬化過程における硬化収縮応力の変化を求める場合には、図11-46に示すように、まず、硬化過程における接着剤の線収縮率の変化と弾性率の変化のデーターが必要です。
出典)春名一志、原賀康介:“接着剤の硬化収縮による内部応力を対象とした数値解析手法”,日本機械学会論文集 A編,Vol.60, No. 579, P. 2589-2594 (1994).
図11-46 区分的線形解析での内部応力の評価法
次に、硬化過程(時間)を複数の区間に分割します。図11-46では8区間に分割しています。
次に、各区間ごとに線形解析を行い、硬化収縮応力の増加分を求めます。
その区間での硬化収縮応力の増分 = その区間での弾性率 × その区間での線収縮率の変化量
第Ⅰ区間での硬化収縮応力の増分σ1=E1×⊿α0
第Ⅱ区間での硬化収縮応力の増分σ2=E2×⊿α1
第Ⅲ区間での硬化収縮応力の増分σ3=E3×⊿α2
・・・・・
第Ⅷ区間での硬化収縮応力の増分σ8=E8×⊿α7
最後に、順次加算していき、各区間での硬化収縮応力を求めます。
第Ⅱ区間での硬化収縮応力=第Ⅰ区間の硬化収縮応力σ1+第Ⅱ区間での増分σ2
第Ⅲ区間での硬化収縮応力=第Ⅱ区間までの硬化収縮応力(σ1+σ2)+第Ⅲ区間での増分σ3
・・・・・
第Ⅷ区間での硬化収縮応力=第Ⅶ区間までの硬化収縮応力(σ1+σ2+σ3+σ4+σ5+σ6+σ7)+第Ⅷ区間での増分σ8
硬化過程における弾性率の変化のデーターは、<前回>の(2)でも述べたように、レオメーター(粘弾性測定装置)などで測定ができます。ただ、レオメーターでコーンプレートなどの回転円盤で求めた弾性率は横弾性率Gなので、縦弾性率Eに換算する必要があります。
G = E / 2 (1 + ν)
νはポアソン比ですが、ν=0.5とすると E = 3G となります。
硬化収縮率は、図11-47に示すような、水銀柱の目盛りの変化を読み取るディラトメトリ法や、硬化収縮に伴う浮力の変化を読み取るアルキメデス法などによって測定できますが、接着剤の粘度、硬化速度、硬化の方式、硬化温度などの点で制約も多く、測定は結構大変です。
出典)長谷川,上山,原賀,廣井;”アルキメデス法を用いた硬化収縮量と収縮応力の評価法”,第50回日本接着学会年次大会P32B(2012).
図11-47 ディラトメトリ、アルキメデス法による硬化過程における収縮率変化の測定例
最近では、JIS K6941「紫外線硬化樹脂及び熱硬化樹脂の収縮率連続測定方法」によって、(1)で述べた「内部応力測定装置(Custron)」と同じ装置「硬化収縮率測定装置(Custron)」で容易に測定することができます。図11-48に測定機構を示しました。ガラス板にのせたテフロンリングの中に接着剤を入れて、中央部の接着剤の厚さの変化をレーザー変位計でを測定するものです。光硬化や加熱硬化が可能です。
出典)中宗憲一((株)アクロエッジ):http://www.acroedge.co.jp/wp-content/themes/canvas_tcd017_child/document/pdf/koukasyuusyuku-purezen.pdf
図11-48 硬化収縮率測定装置(Custron)による硬化収縮率の評価法
図11-49に、Custronによる一液加熱硬化型エポキシ系接着剤の収縮率の経時変化の測定例を示します。まず、室温から硬化温度まで加熱されると、接着剤は未硬化の状態で熱膨張します。その後、加熱によって硬化が始まると、急激に硬化収縮が生じています。硬化後、室温までの冷却段階では、熱収縮が生じています。このように、この装置を用いれば、簡易に測定ができるので、数種類の接着剤の収縮率の大小を比較するには便利です。
出典)中宗憲一((株)アクロエッジ):http://www.acroedge.co.jp/wp-content/themes/canvas_tcd017_child/document/pdf/koukasyuusyuku-purezen.pdf
図11-49 硬化収縮率測定装置(Custron)による硬化収縮率の測定例(一液加熱硬化型エポキシ系接着剤)
しかし、収縮率を正確に求めるとなると、得られたグラフの縦軸の収縮率の値にはいくぶん不明確な点があります。即ち、接着剤の中央部1点の厚さの変化を測定しているため、縦軸の収縮率は、体積収縮率なのか線収縮率なのかそれとも両者の中間なのかがはっきりしないという点です。区分的線形解析で硬化収縮応力を計算するためには、正確な線収縮率のデーターが必要です。であれば、従来から、ほとんどの接着剤で使われてきた<比重法>を用いて、硬化前の液体状態の比重と硬化後の硬化物の比重から体積収縮率を求めて、図11-47のA点とB点の縦軸の範囲を補正するのが良いでしょう。低粘度の接着剤では、液体の比重測定は容易にできますが、高粘度やペースト状などの接着剤では苦労します。板上に適量塗布した接着剤の形状を、硬化前後に3Dスキャンして体積を求めることでも体積収縮率を測定することができます。
なお、区分的線形解析では、硬化収縮率は、体積収縮率ではなく、<線収縮率>が必要なので、換算する必要があります。
線収縮率 ≒ 体積収縮率 / 3
図11-50の【A】は、レオメーターを用いて、2種類の二液室温硬化型エポキシ系接着剤の硬化過程での接着剤の弾性率の経時変化を測定して、横弾性率Gを縦弾性率Eに変換したものです。【B】は、アルキメデス法を用いて、体積収縮率の変化を測定して、線収縮率に換算したものです。【C】は、【A】【B】のデータから、1)で示した方法で区分的線形解析により求めた硬化収縮応力の変化です。なお、硬化時間1分ごとに1区分としています。
出典)長谷川,上山,原賀,廣井;”アルキメデス法を用いた硬化収縮量と収縮応力の評価法”,第50回日本接着学会年次大会P32B(2012).
図11-50 硬化過程での弾性率と線収縮率の経時変化から区分的線形解析で求めた硬化収縮応力の算出例
(2種類の二液室温硬化型エポキシ系接着剤)
実際の接着部品での硬化収縮応力の大きさや分布、部品の変形や位置ずれを評価するためには、実際の接着部品形状での有限要素法解析(FEA)を行う必要があります。
図11-51は、金属のベースに平面のガラスミラーを接着するものの要素分割を示しています。接着層の厚さを一定にするために、ベースとミラーの間に、接着層の厚さに相当する厚さの円形の穴を設けたスペーサーが挿入されていて、穴の部分に接着剤が入ります。有限要素法のモデルでは、スペーサーはモデル化せず、円形の接着部の外周部分が厚さ方向に拘束されています。
出典)HARUNA K, HARAGA K: “Finite Element Analysis for Internal Stress of Room Temperature Cured Adhesives.”,Tech Pap Soc Manuf Eng, No.AD97-207, P.1-7, (1997)
図11-51 区分的線形解析による硬化過程での内部応力の計算例(2種類の二液室温硬化型エポキシ系接着剤)
まず、第Ⅰ区間での弾性率と線収縮率で計算して、得られた各要素の節点の変位と荷重データを求めます。次に、それを引き継いて、第Ⅱ区間の計算の新たなモデルとして、第Ⅱ区間の弾性率と線収縮率の差分で再度計算して増分を求めます。これを各区間で繰り返して計算します。
すると、図11-52(右上)に示すような解析結果が得られます。スペーサーの穴の内部の接着剤だけが硬化収縮するため、ミラーが下方向に引張られて反っていることがわかります。区分的線形解析を用いた有限要素解析で得られたミラーの変形と光学干渉計を用いて実測したミラーの表面の変形を比較した結果から、両者はよく一致していることがわかります。
出典)HARUNA K, HARAGA K: “Finite Element Analysis for Internal Stress of Room Temperature Cured Adhesives.”,Tech Pap Soc Manuf Eng, No.AD97-207, P.1-7, (1997)
図11-52 区分的線形解析で求めたミラーの変形と実測値の比較
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