≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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今回からは、接着の信頼性や品質にとって重要な<耐久性(劣化)>について述べていきます。
接着された部品が、使用中に、種々の環境や応力によって、化学的、物理的変化を起こして、強度、シール性、機械的・電気的・光学的・磁気的などの機能や品質が低下していく現象と考えれば良いでしょう。長期間にわたって機能や品質の低下が少なければ<耐久性に優れている>、機能や品質の低下が大きければ<耐久性に劣っている>と言われます。
耐久性の評価においては、特性の<平均値の低下>が議論されることが一般的ですが、劣化に伴う<ばらつきの増大>についてはほとんど議論されていません。図12-1に示すように、劣化すると、接着強度などの特性値が、初期の平均値μ0からμyに低下するとともに、ばらつきは、初期の変動係数Cv0がCvyにk倍増大します。増大率kについては、<第9回>の<Cv接着設計法>の(8)で、「k は、講師が行ってきた長期間の耐久性試験や製品の結果から、初期に凝集破壊の場合は、耐用年数、使用環境、応力の厳しさによって1.0~1.5倍と考えれば良いという経験値があります。」と述べています。
劣化に伴ってばらつきが大きくなるのは、初期にできのよい物は劣化が少なく、初期にできの悪いものは大きく劣化するためと考えると納得できるでしょう。ですから、初期に<界面破壊>するような接着体の場合は、k は2倍以上となる場合も頻繁に生じます。k が大きい場合は、耐用年数到達以前に、できの悪いものは接着強度が0以下となり、自然はく離して壊れてしまうこととなります。ここでも、<凝集破壊率>を高くしておくことの重要性がわかると思います。
図12-1 劣化による特性の平均値の低下とばらつきの増大
よく「接着剤が劣化したのでもっと良い接着剤を教えて欲しい」という問合せを受けます。しかし、よく調べてみると、劣化しているのは接着剤ではなく、接着剤と被着材との結合界面であったりします。「接着部の劣化=接着剤の劣化ではなく」、図12-2に示すように、接着部においては、接着剤自体の劣化以外にも、接着界面や被着材自体(特に接着表面付近)の劣化もあります。最も多く見られるのは、接着界面での劣化です。
図12-2 接着体における劣化の箇所
<第15回>の図9-14で示したように、接着部の脆弱箇所は接着部端部の界面です。これは、接着剤と被着材表面との結合は分子間力による結合で、共有結合やイオン結合、金属結合などに較べると結合力が弱いこと、接着部に外力や内部応力が加わると接着部端部の界面付近に応力集中しやすいこと、被着材自体が、金属やガラス、セラミックスなどのように、液体や気体を通さない場合は、液体や気体は接着部の周囲から内部に向かって入ってくるためです。このように、接着界面は劣化の起点となるため、界面での結合力を高くして、初期に凝集破壊率を高くしておくことが耐久性向上の基本です。
図12-3に示すように、<劣化因子>(劣化を引き起こす因子)としては、大きく分けると<環境的因子>と<力学的因子>があります。
<環境的因子>としては、液体、気体(電離したプラズマも含む)、光や放射線などの電磁波、カビや細菌などの生物などがあり、<応力的因子>としては、変動応力(疲労)や一定応力(クリープ)などの外力、硬化収縮応力や熱収縮応力、熱応力、膨潤応力などの内部応力などがあります。環境的因子と応力的因子が複合して作用する<複合劣化>もあり、劣化因子が複合されると劣化しやすくなります。
劣化の速度は、温度、圧力、濃度、エネルギーの強さ、時間などの<加速因子>により変化します。
<劣化因子>と<加速因子>が決まれば、劣化の程度は決まるかというと、そうではありません。劣化の程度は、<劣化する側の因子>(接着剤、被着材、接合界面)によって変化します。
図12-3 劣化の要因
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接着剤と被着材表面は、基本的に極性基同士の分子間力で結合していますが、図12-4に示すように、被着材表面の極性基の密度(数、ピッチ)と接着剤の極性基の密度(数、ピッチ)は異なるため、結合箇所は少なく、接合点の間は間隙になっています。
また、有機系の接着剤は、熱可塑性樹脂では分子鎖が絡み合っており、熱硬化性樹脂では3次元の網目構造を形成しています。これらの分子鎖や網目の間には間隙(自由体積)があります。
図12-4 接着部の間隙
液体や気体などの劣化因子はこれらの間隙に侵入してきます。接着剤と被着材の結合界面に液体や気体が入り込むと、界面での分子間力での結合が切られたり、被着材の接着表面が変質して、酸化膜や水酸化膜などの弱い層ができると、そこが<弱境界層(WBL)>となります。界面は、接着剤と被着材表面だけでなく、接着剤に含まれている充填剤や繊維などと接着剤の樹脂成分との間にも存在しています。接着剤内部の間隙を通って侵入した液体や気体によって充填剤や繊維などと樹脂成分との界面がやられると、接着剤自体が弱くなります。また、樹脂成分や各種の添加剤が水によって分解される(加水分解など)こともあります。
接着部の劣化を考えるときには、接着剤や界面はスカスカの状態であることを頭に入れておくと理解しやすいと思います。
なお、界面に極性基が多く残っていると、液体や気体を引き込みやすくなります。
接着部が劣化するかどうかは、負荷される<劣化因子>(環境因子や応力因子)と、<劣化する側の因子>(界面での結合力の強さや接着剤自体や被着材自体の安定性)と、<加速因子>の影響度の関係で決まります。劣化因子と加速因子に対して劣化する側の因子が強ければ劣化を防ぐことができます。
長期間過酷な環境で使用される構造接着では、数十年間使用されてもほとんど劣化せず、十分に特性を維持して機能しているものは多くあります。<第3回><第4回>で述べた、<接着設計技術>と<接着生産技術>で接着の条件を最適化すれば、製品の耐用年数まで要求機能を十分満足できる接着は可能です。
次回からは、代表的な劣化(熱劣化、水分劣化、光劣化、クリープ劣化、疲労劣化)について述べていきます。
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