≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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12.接着の耐久性(劣化)
高温の空気中で長期間使用する場合、接着特性がどのくらい低下するのかを知ることは重要です。
ここでは、従来から、プラスチック(JISK7226)やゴム材料、絶縁材料(JISC2143)などの劣化予測として使われてきた<アレニウス法>による予測の方法を紹介します。
1)長期劣化予測の鉄則
長期間の劣化を予測する際に、常に頭に入れておくべき二つの鉄則を示します。
【鉄則1】単純化する。
予測法には種々の方法が有り、単純なものから複雑高度なものまで有ります。劣化のメカニズムが詳しく解明されていて、劣化の現象が理論的に説明できる場合は、複雑高度な方法も適用できますが、接着体の劣化では、劣化箇所は接着剤自体、界面、被着材表面など複雑で、それぞれの劣化モードが混在していて、特性の低下値はそれらが組み合わさったものです。ですから、私は、接着体については、最も単純な方法を用いて推定するしかないと思っています。
扱いを複雑にすると推定は困難になるため、思い切った単純化を行う、ということです。
【鉄則2】安全サイドの推定を行う。
決して危険サイド(劣化は少ないという結果)の推定を行ってはなりません。
2)アレニウス法
アレニウス法とは、化学反応の速度は、温度Tと活性化エネルギーE に依存しており、温度が高いほど、活性化エネルギーが低いほど反応が速くなるというもので、(12-1)式で示され、それを提唱したスウェーデンの科学者スヴァンテ・アレニウスの名前から<アレニウス法>と呼ばれています。
k = A exp(-E/RT)・・・(12-1)
k:反応速度定数、A:定数、E:活性化エネルギー、R:気体定数、T:絶対温度(K)
ある一定の反応(劣化)を起こす時間tで表すと、(12-2)式となります。
log t = a + (E/2.3R )×(1/T)・・・(12-2)
t:ある一定の割合まで劣化するのに要する時間
E:活性化エネルギー 接着剤や被着材の種類などにより変化する (単位:J/mol)
R :ガス定数 R = 8.314 J/K・mol Kは絶対温度(ケルビン)
T:劣化試験を行った温度(絶対温度K) -273℃ = 0K
(12-2)式をグラフにすると、図12-12のように、x軸が1/T、y軸がlog t、傾きがE/2.3Rの直線関係となります。
ある温度で一定の割合まで劣化するのに要する時間 t を求めようとする場合には、3つの温度(T1、T2、T3)、できれば4つの温度で加速劣化試験を行って、それぞれに一定の割合まで劣化する時間(t1、t2、t3)を求めて、図12-12のようにプロットします。次に、近似直線を引いて、求めたい温度まで外挿して、時間tを読み取ります。
図12-12 ある一定の割合まで劣化するのに要する時間 t と 暴露温度T(絶対温度)の逆数の関係
3)アレニウス法による長期熱劣化の予測例
図12-13は、120℃の空気中で長期間使用した時の接着強度の経時変化を求めるために行った実験の例です。室温硬化型変性アクリル系接着剤(SGA)で鋼板とニッケルめっき鋼板(それぞれ脱脂のみ)を接着したもので引張りせん断強度を求めています。
アレニウス法で予測するために、150℃(423K)、180℃(453K)、200℃(473K)、220℃(493K)の4温度で加速劣化を行っています。しかし、150℃では、半年間暴露しても強度は見られなかったため、150℃のデーターは除外して、強度が低下した180℃、200℃、220℃の3温度のデーターから推定しています。
温度と時間の値は、実験で得られた劣化曲線から直接読み取ってもかまいませんが、ここでは、<単純化>という点から、それぞれの温度での劣化曲線を直線化して、その直線から読み取っています。例えば強度が30%低下する時間(強度保持率70%になる時間)であれば、単純化した直線から、t1、t2、t3を読み取ります。
図12-13 アレニウス法による空気中での長期劣化の予測例(加速試験と単純化)
次に、図12-14に示すように、暴露温度の絶対温度の逆数(1/T)と劣化時間tの対数時間log tをプロットして、直線近似します。強度が30%低下する時間(強度保持率が70%になる時間)は、図中の青色の線です。青色線から120℃(393K)暴露においては、約30年で強度が30%低下するという予測結果が得られます。
図12-13で、さまざまな劣化度合い(強度保持率)について温度と時間の関係を求めてプロットすると、図12-14に示すように、強度保持率ごとに直線が得られます。
図12-14 図12-13の各種保持率における温度・時間データのプロットと近似直線
さて、ここで得られた推定結果の妥当性はいかなるものでしょうか。結論から言うと、実際よりかなり安全サイドの予測(大きく劣化するという予測)となっています。その根拠は、図12-13で示したように、実際の130℃での暴露試験では、半年後も強度低下は示していませんが、図12-14のアレニウス法での推定では、150℃(423K)で半年後には、赤丸で示したように、保持率が約90%まで低下するという結果となっているからです。
このように、実測値と推定値で解離が生じた原因としては、接着剤のガラス転移温度(Tg)以上での加速試験結果から、Tg以下の温度での劣化時間を推定したためと考えられます。ここで用いた接着剤のガラス転移温度(Tg)は163℃です。おそらく、Tgを境として、Tg以下での直線の傾きは、図12-14に示した緑色の線のように、Tg以上での傾きよりも大きくなるものと考えられます。しかし、Tg以下での直線の傾きを求めるためには、年単位の試験が必要となります。そんな悠長な試験をやる余裕はなく、Tg以上の直線をTg以下まで外挿すれば尤度のある安全サイドの推定ができるのであればそれで良しということから、従来から直線外挿で良しとされています。
4)10℃2倍則
<10℃2倍則>という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。これは、温度が10℃上がれば反応速度が2倍になるというものです。この関係が常に成り立つのであれば、いちいち面倒なアレニウス法での予測は不要となります。
例えば、ある反応率に達する時間が100℃で100時間であれば、90℃では200時間、80℃では400時間、70℃では800時間、60℃では1600時間かかるということです。2倍則だけでなく、3倍則などもあります。
図12-13で、180℃暴露では100日で強度保持率が70%に低下しているので、これに10℃2倍則を当てはめると、170℃では200日、160℃では400日、150℃では800日、140℃では1600日、130℃では3200日、120℃では6400日、即ち120℃では17.5年で強度保持率が70%に低下するという結果になります。図12-14のアレニウス法では、約30年という結果なので、アレニウス法より、かなり安全サイドの結果となっています。
10℃3倍則を当てはめると、170℃では300日、160℃では900日、150℃では2700日、140℃では8100日、130℃では24300日、120℃では72900日、即ち120℃では約200年という結果になり、アレニウス法より危険サイドの結果となります。
接着体の場合は、接着剤自体の劣化、界面結合部の劣化(異種材接着の場合は界面は2箇所)、被着材表面の劣化(異種材接着の場合は表面は2種類)など複数の劣化反応が混合しており、接着剤、被着材が異なると、時間に対する反応速度の倍率は変化するため、アレニウス法で実験的に求めるしかないと言うことです。
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<アウトガス>は、一般には劣化には含まれませんが、高温環境下で使用される機器においては種々の障害の元になるので、ここで述べておきます。
1)アウトガスとは
<アウトガス>とは、硬化した接着剤や塗料、プラスチック、ゴムなどが高温や真空下で使用される場合、材料中に含まれている水分や未反応物質がガスとして放出されるものです。
放出されたガスが、別の部品の表面に付着すると、レンズや太陽電池、発光素子などの光学特性の低下、接点での導通不良、水晶振動子の周波数低下などさまざまな問題を引き起こします。
アウトガスは高温や真空中で発生しやすくなるため、宇宙用機器では非常に重要視されます。
2)アウトガス試験と規準
アウトガス試験は、米国航空宇宙局(NASA)が推奨している試験規格ASTM E595が一般に適用されています。この方法では、サンプルを125℃、7×10-3Pa 以下の真空下に24時間放置して、TML(質量損失比)、CVCM(再凝集物質量比)、WVR(再吸水量比)を測定します。宇宙用としては、TMLは1.00%未満、CVCMは0.10%以下の規準があります。
詳細は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の材料データーベース https://matdb.jaxa.jp/main_j.html が参考になります。
3)アウトガスデータベース
上記のJAXAの材料データベースの中に、アウトガスデータベースがあります。数少ない接着剤に関するデーターベースとして貴重なもので、接着剤以外にも多くの用途別に検索ができます。「接着剤」で検索すると、現在675種類の接着剤のTML、CVCM、WVRの測定結果が掲載されています。
被着材が光を通す場合は、接着剤、界面での結合部、被着材の接着表面などが光によって劣化することがあります。光のエネルギーは波長が短いほど高いため、紫外線では可視光線や赤外線より劣化を生じやすくなります。また、光の照度、照射時間が長くなると劣化が大きくなります。
図12-15は、光による劣化のモードを示したものです。図中の①②③は、下記の説明の①②③と対応しています。
図12-15 光による劣化のモード
① 接着剤の結合破壊
被着材を透過した光によって、接着剤の分子鎖から水素が引き抜かれてラジカルが発生し、そのラジカルと酸素が反応して酸化が進行していくものです。ラジカル発生後の酸化劣化は、12.2で述べた熱劣化と同じです。
<第14回>で述べた<短波長紫外線照射>による表面改質は、この光のエネルギーによる結合破壊を利用したものです。
紫外線より波長が短いX線やγ線などの放射線は、非常に強いエネルギーを持っています。そのため、これらの放射線が接着部に照射されると、接着剤の分子の結合エネルギーが放射線のエネルギーより低い部分は、結合が破壊され劣化します。なお、放射線の照射によって、結合の破壊だけでなく、分子鎖間での架橋反応が生じることも有り、この場合は、接着剤が硬くなったり脆くなることがあります。
② 界面の結合の破壊
接着剤と被着材表面の分子間力による結合部が、光によって切断されて劣化します。
③ 被着材の接着表面付近の劣化
被着材が樹脂やゴムなどの場合は、透過してきた光によって被着材の接着表面付近で分子鎖の切断が生じて、弱い層が生成するものです。
私は光劣化については詳しくないのでこの程度にしておきます。
次回は、接着の耐久性で最大の課題である<水分による劣化>について述べます。
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