≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
<接着設計技術>とは、接着の特徴・機能を最大限に活用し、欠点をカバーして、高性能・高機能で信頼性・品質・コストに優れた製品を高い生産性で製造するための開発段階での作り込みの技術です。簡単に言えば、接着を使いこなす技術とも言えます。
<第2回>で述べたように、<接着設計技術>は(1)機能設計、(2)材料設計、(3)構造設計、(4)工程設計、(5)設備設計、(6)品質設計などの要素技術で構成されています。各要素技術では次のようなことを検討します。
図4-1(再掲) 接着設計技術と要素技術
機能設計は、接着が有する多くの特徴・機能を製品設計にいかにうまく生かすか、接着の欠点をいかにうまくカバーするかという技術で、次のようなことを検討します。
◆接合という機能だけでなく、接着の多くの特徴・機能・利点を活用することで、部品や機器のさらなる性能向上やコストダウンを図る。接着から得られる効果をいかに多く盛り込めるかがポイント。
例えば、異種材接着性・低温接合性(適材適所の材料選定)、面接合での応力分散性(薄板化、剛性向上)、接着剤の振動吸収性(防音・静音)、絶縁性(電食防止)、低歪性(意匠性向上、精度向上)、隙間充填性(シール、放熱、部品の加工精度低減)、火気レス工法、など。
◆接着の欠点をいかにしてカバーするか。
例えば、短時間硬化性、絶縁性のため部品間のアースや電着塗装での非通電性、火災時の消失、などの欠点への対処法。接着と他の接合を併用する複合接着接合法の活用を考えるなど。
◆接着の欠点を逆に活用する。
例えば、接着剤が高温で燃焼してはく離するという欠点を活用する。扉の内部に補強材が接合されていると、火災時に扉の片面が高温になると扉が反って火や煙が隙間から隣接する部屋に流れ出ます。補強材の固定に接着を用いれば、高温で接着部が剥がれて扉の反りは小さくなり、火や煙の流出量をへらすことができます。
表5-1に、接着の利点と得られる効果をまとめました。参考にして下さい。
表5-1 接着の利点と得られる効果
材料設計は、接合部に要求される機能を満足させながら、刻々と変化する部品の状態、接着剤、作業環境などに広い作業許容条件範囲で対応できるための、材料系の作り込みの技術で、次のようなことを検討します。
◆検討対象材料 部品の材質・表面状態、前処理関係の材料、プライマー、接着剤、など。
◆接着性からの部品の材質、表面状態の選定。
◆表面処理法、表面改質法。
◆部品表面の塗装、めっき、コーティングなどの膜の密着性。
◆接着剤、プライマーの選定。
◆接着剤の物性(接着剤の弾性率、ガラス転移温度、硬化収縮率、線膨張係数、粘度・流動特性、など)。
◆性能面と併せて、工程の簡素化や作業の許容範囲を広く取れる材料系の選定。
◆材料メーカーや部品メーカーなど上流に遡った情報収集、協議、改良。
◆ロット、保管条件による変化とばらつきの把握。
◆受入検査の規格作成、保管の条件、期限の設定。
◆開封後の使用期限、再保管時の方法・条件の設定。
◆工程毎の最適条件と許容範囲の決定。
◆部品、接着剤、作業環境などが許容範囲内であるかどうかを判定するための検査方法の開発、 など。
構造設計という言葉から高強度を得るための「継手設計」と考えられがちですが、作業し易く、間違いを回避でき、破壊に対する冗長性を確保できることも併せて検討します。
◆部品の性能・機能を低下させない構造。
◆貼り間違いを防止する構造。
◆液体に適した部品構造。
・接着剤を塗布しやすい構造
・塗布した接着剤が垂れたり掻き取られたりしない構造
・接着剤のはみ出しを防止する構造
◆硬化までの固定が容易な構造。
◆高強度が得られる構造。
・接着部の形状・寸法、部品の強度
・応力集中を避ける構造
・局部負荷を避ける構造
・形状、剛性、物性の不連続性を回避する構造
◆接着剤の物性の最適化。
◆接着層の厚さ。
・最適厚さと許容範囲
・接着層厚さの制御方法と構造
・部品の公差
◆接着部の内部応力が低減できる構造。
◆耐久性に優れた構造。
・耐湿性・耐水性確保のための接着部の形状・寸法
・クリープを防止する構造
◆破壊に対する冗長性に優れた構造。
◆工程毎の検査がやりやすい構造、 など。
工程面からどのような接着剤や構造が最適かを考えます。工程内検査の方法や自動化と人手作業の最適化も検討します。
◆接着組立のプロセスは、使用する接着剤の種類、性状・物性、接着部の構造、部品の材料などにより大きく異なるため、候補となる各種の接着剤の種類、性能・物性ごとに組立プロセスがどのようになるのかを複数書き出して、それぞれの長所・短所を明確にして、最適な組立プロセスを選定する。材料設計や構造設計、設備設計などにフィードバックする。
◆接着接合には、表面処理・表面改質、接着剤の計量・混合・塗布、部品の位置合わせ・貼り合せ、加圧・固定、加熱・養生、仕上げ・検査など多くの工程がある。いずれかの工程でトラブル停止した場合の対処法を決める。
◆各工程における検査方法の検討。
◆組立や検査を自動で行うのか、人手で行うのかの最適化の検討、 など。
◆接着では次のような設備が用いられます。各装置の仕様を決めます。
・表面処理、洗浄・乾燥、表面改質装置 ・接着剤の計量・混合・塗布装置
・位置合わせ・貼り合せ装置 ・加圧・固定装置
・加熱・養生装置 ・仕上げ装置
・検査装置
◆設備だけでなく、組立治工具の検討は、作業性や品質を左右するので非常に重要です。
◆必要な設備は、使用する接着剤の種類、性状・物性、接着部の構造、部品の材料などにより大きく異なるので、候補となる各種の接着剤の種類、性能・物性ごとに必要な設備を見積もって、長所・短所を明確にして、設備や治工具面から、材料設計、構造設計、工程設計などにフィードバックします。
◆設備内の状態をリアルタイムに計測・可視化できるようにすることも重要です。
◆各工程の許容条件範囲を外れたときは、アラームを出して自動停止させるようにする。
◆設備の費用やランニングコスト。
信頼度やばらつきの目標値を明確化し、目標値達成の面から各要素技術の検討内容を詰めていきます。
◆要求条件を明確化する。(必要最低強度とばらつきの許容範囲、負荷の状態と応力値、使用環境、耐用年数、作業環境、など)
◆接着部の要求信頼度(許容不良率や工程能力指数など)を決める。
◆工程ごとの品質確認、検査方法とその基準を作成する。
◆工程ごとの記録するデータの項目と計測・確認方法の検討。
◆工程管理表、作業手順書の作成。
◆現場責任者、作業者の教育・訓練の実施。
◆トラブル時の対処方法の決定と文書化、訓練の実施、 など。
<接着設計技術>の到達点は、各要素技術での検討結果を総合して、接着に関わる全ての部品、材料、工程、設備について最適条件と許容範囲を明確に決定することです。
※上記の諸項目は、言葉だけでわかりにくい点もあると思います。この塾で追々説明していきます。
次回は、<接着生産技術>の各要素技術での具体的な検討内容について述べたいと思います。
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