≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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12.接着の耐久性(劣化)
(1)でも述べたように、定荷重(応力)負荷による劣化は、<水分劣化>と並んで、接着部の劣化に大きく影響する重要な要因です。定荷重(応力)負荷による接着部の破壊時間を延長するためには、
① クリープ変形を起こしにくい硬い接着剤(高弾性率、高Tg)を用いる、
② 接着部に加わる負荷応力を減らす(接着面積を大きくする、負荷荷重を小さくする)、
③ 使用環境上限温度を低くする、
④ 被着材表面と接着剤との結合力を強くする、
などが考えられます。しかし、これらは、製品に要求される特性・機能や種々の制約から簡単に変更できるものではありません。ではどうすれば良いのでしょうか。まずは、構造面から接着面に継続荷重が加わらない構造を採用することです。
例えば、図12-49のように、縦面に部品取り付け座を接着して、部品をねじなどで取り付け座に固定すると、取り付け座の接着部には部品の自重が継続力として加わります。このような場合は、取り付け座を長くして底面に押し当てると接着部に加わる力はなくなり、継続荷重による劣化を考慮する必要は無くなります。
図12-49 定荷重負荷による破壊を回避する構造の一例
図12-50は、板金製のドアにヒンジを接着で取り付ける例です。ドアの重量は大きいので、接着部には大きな力が継続的に加わります。接着だけで長期間にわたって固定するのはかなり困難です。このような場合は、ヒンジ側に突起を、ドア側にスリットを設けて差し込む構造にするだけで接着部に荷重が加わらないようにすることができます。さらに、接着部の中央部に穴をあけてリベット(ファスナー)やネジを併用すると、強度も信頼性も高くなります。このように、接着と他の接合法を併用する接合法を、<複合接着接合法>と呼んでいて、実際の構造物では多用されています。
図12-50 接着部に加わる継続荷重を回避する構造の一例
図12-51は、接着のみ、接着+リベット(リベットボンディング)、接着+スポット溶接(ウェルドボンディング)の定荷重負荷による破断時間と接着部のズレ変形率の比較を示したものです。軟鋼板同士を幅25mm、重ね合せ長さ20mmで、二液室温硬化型変性アクリル系接着剤(SGA)で接着したもので、リベットやスポット溶接は接着部の中央部に1点施工しています。図12-51(左)は、60℃90%RH雰囲気中での継続荷重負荷による破断時間の比較です。この結果から、リベットを1点併用すると、定荷重耐久性は大きく向上し、1000時間強度は約3倍高くなっています。スポット溶接を併用した場合は、大きな荷重が加わり続けても破断していません。図12-51(右)は、60℃雰囲気中で3kNの荷重を負荷した場合の、接着部のズレ変形率εの経時変化です。接着だけでは、時間とともにズレが大きくなり、やがて破断しますが、リベットを併用すると、変形速度が小さくなり、スポット溶接を併用した場合は、ほとんど変形が生じていないことがわかります。
<複合接着接合法>については、別の機会に詳しく述べます。
図12-51 接着のみ、接着+リベット、接着+スポット溶接の定荷重耐久性とズレ変形率εの比較
<定荷重(応力)負荷による劣化>と<水分劣化>は、接着部の劣化に大きく影響する因子です。この二つの因子が複合して加わると、さらに劣化が促進されます。このことは、<前回>の図12-42でも述べていますが、ここで詳しく延べます。
図12-52は、60℃環境における定荷重(応力)破断試験の結果です。実験は、軟鋼板(厚さ1.6mm)同士を二液室温硬化型変性アクリル系接着剤(SGA)で接着した引張りせん断試験片(幅25mm、重ね合せ長さ12.5mm)にバネで引張り力を加えた状態で、破断までの時間を求めています。暴露の温度は60℃で一定ですが、相対湿度を5%RH、30%RH、60%RH、90%RHと4段階変化させています。この結果から、相対湿度が高くなるほど、定荷重(応力)耐久性が低下していることがわかります。1000時間強度は、乾燥状態の5%RH雰囲気に較べて、湿潤状態の90%RH雰囲気では1/5程度、60%RHでは1/2程度、30%RHでは2/3程度に低下しています。また、5MPa負荷での破断時間は、乾燥状態の5%RH雰囲気に較べて、90%RHでは1/150程度、60%RHでは1/75程度、30%RHでは1/30程度に低下しています。
図12-52 定荷重(応力)耐久性に及ぼす水分の影響~応力と水分の複合による劣化促進~
定荷重(応力)破断試験は、温度のみを設定して湿度を付加しない環境で試験されることが一般的ですが、接着部が使用される実環境で水がかかったり高湿度環境にさらされる場合は、試験結果より速く劣化してしまうので、注意が必要です。
では、水分と荷重(応力)が複合して加わるとなぜ劣化が促進されるのでしょうか。次の二つの理由が考えられます。
<第29回>の「12.4 水分劣化」の「(2)水分による劣化モード」で述べたように、接着剤は水分を吸収すると可塑化して軟らかくなります。接着剤が軟らかくなると、同じ荷重(応力)が負荷された場合、クリープ変形の速度が速くなり短時間で破壊します。
図12-53は、界面の結合力の大きさの模式図です。接着剤は液体の間に被着材表面と分子間力で結合します。その後、硬化段階で硬化収縮応力や硬化温度から室温までの冷却段階で生じる熱収縮応力などの内部応力で結合力は低下します。その時点の界面での結合力を①で100と示しています。この状態で、接着部に②の定荷重(応力)が負荷されると、結合部は引張られるため、残存結合力は③に低下します。②の負荷荷重(応力)値が大きいほど③は低下します。水分が加わらなければ、③の結合力でどこまで耐えられるかと言うことになりますが、周囲から接着部に水分が侵入すると、<第29回>の「12.4 水分劣化」の「(2)水分による劣化モード」で述べたように、水は結合を切断するため界面での結合が破壊されたり、侵入した水分によって被着材の接着表面付近の劣化が生じ、界面での結合力は⑤に低下します。④の水が結合を切ろうとする力は、湿度(水蒸気圧)が高いほど、温度が高いほど大きくなります。その結果、高温高湿度中では⑤の残存結合力は小さくなり、定荷重(応力)負荷により短時間で破壊してしまいます。
図12-53 水分と応力の複合で界面での結合力が低下する理由
図12-54は、図12-52と同様の試験片に、引張り力を加えた状態と加えない状態で60℃90%RH雰囲気に暴露したときの強度変化の比較です。破断する前に暴露環境から取り出して、残存接着力を測定しています。この結果より、無負荷状態での強度低下に較べて、負荷応力が大きくなるほど残存強度の低下が大きくなっていることがわかります。
図12-54 接着強度の低下に及ぼす負荷応力の影響
接着部に生じる赤錆を見ると、無負荷の場合は、28日目では錆の発生はほとんどなく、150日目では接看部の周辺に約2 mmの錆が発生しています。一方、1MPa負荷した場合は、14日目にはすでに錆の発生がみられ、暴霧期問が長くなるにつれて錆は多くなり、150日目にはほぽ全面に錆が発生しました。錆の発生は、接着部に水分が侵入したことを示すもので、応力が負荷されることによって、接着部へ水分が侵入しやすくなるということがわかります。
なお、無負荷の場合は、接着部の周辺全体にほぼ均一に錆が発生していますが、応力を負荷した場合は、接着部の幅方向の側面部より、重ね合わせ長さ方向の端部の方が錆が多く発生しています。これは、荷重が負荷された場合、重ね合わせ端部に応力が集中するためと考えられます。
「12.5 定荷重(応力)耐久性」の「(5)定荷重(応力)耐久性の改善法」でも述べたように、接着剤と他の接合方法を併用する<複合接着接合法>を活用することで、定荷重(応力)耐久性を向上させることができます。この効果は、荷重(応力)と水分が複合して加わる場合にも効果が得られます。
図12-55は、図12-51と同様の試験片で、接着部の中央にリベット(ファスナー)やスポット溶接を1点施工したものと接着のみのものの比較です。それぞれ、負荷荷重と重ね合わせ端部に発生した赤さびの量の経時変化を示しています。いずれも、負荷荷重値が大きくなるにつれて、短時間で錆が発生していますが、同一荷重値で較べると併用接合法を活用することで、錆の発生速度は低下しており、高湿度環境下での定荷重(応力)耐久性が向上していることがわかります。
図12-55 接着のみ、接着+リベット、接着+スポット溶接接合部の
負荷荷重値と重ね合わせ端部の赤さび発生量の比較(60℃90%RH暴露)
ここまで、水分と定荷重(応力)負荷の複合劣化について述べましたが、複合劣化は定荷重(応力)負荷に限らず、繰り返し疲労などの変動荷重(応力)負荷の場合も起こります。応力劣化試験を行うときは高湿度下で行わないと、設計強度を高く見積もってしまうことになるので注意して下さい。
次回は、疲労耐久性について説明します。
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