≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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<第32回>の「12.5 定荷重(応力)耐久性(クリープ耐久性)」では、接着部に継続して一定の力が加わっている場合に生じる劣化について述べましたが、ここでは、変動力が接着部に加わる場合の劣化について説明します。
変動力が繰り返し負荷されると、小さな損傷が生じて、その損傷が繰返し回数の増加につれて拡大して、やがては破壊する現象が<疲労>です。
疲労耐久性は、一般に、外力による現象が扱われていますが、接着部においては、接着剤と被着材の線膨張係数が異なるため、温度変化によって接着部に<熱応力>が発生します。この熱応力の繰り返しによって生じる接着部の強度低下や破壊は、一般に、<ヒートサイクル>や<ヒートショック>などの<冷熱繰り返し>という言葉で、応力劣化ではなく環境劣化に区分されていますが、ここでは疲労耐久性の一つとして扱います。
接着部における外力や熱応力による繰り返し疲労は、①接着剤自体と②界面結合部の2箇所で生じます。このため、接着部の疲労特性は、接着剤のみでの疲労特性とは異なる結果となるので、破壊後の状態をよく観察して、接着剤自体での疲労破壊か界面での疲労破壊かを区別することが必要です。どちらが主体的かを判断することで、対策の方法が異なってきます。
図12-56は、鋼板同士を、リベット(ファスナー)、スポット溶接、アーク溶接、接着、接着とリベットの併用で接合したせん断試験片での繰り返し疲労試験の結果です。その結果、リベット、スポット溶接、アーク溶接に較べて、接着、接着とリベットの併用接合では高い疲労特性を示しています。これは、リベットやスポット溶接は点状の接合、アーク溶接は線状の接合であるため、点や線での接合部分に負荷力が集中して、応力が高くなりますが、接着は面での接合であるため、接合面全面で負荷力を受け、点や線での接合より応力が低下するためです。
板/板接合では、板厚が薄くなるほど疲労特性は低下します。図12-56では、接着、接着とリベットの併用接合の板厚は1.6mmで、リベット、スポット溶接、アーク溶接での板厚2.3mmより薄いですが、それでも高い疲労特性を示しています。
図12-56 各種接合方法の疲労特性の比較
この例のように、接着は応力分散ができる点から、優れた疲労特性を示します。接着部の強度が高い場合には、接着部より母材自体が先に疲労破壊することもあります。
① 繰り返し力の波形
疲労試験では、試験体に繰り返し力を加えますが、最も多く用いられている負荷力の波形は、図12-57に示す<正弦波>(サイン波)です。その他に、矩形波、三角波、変動波などが使われる場合もあります。
② 片振り試験と両振り試験
図12-57に示すように、負荷力の最大値と最小値の両方とも引張り力または圧縮力での試験を<片振り試験>、引張り力と圧縮力の両方にまたがって負荷力が加わる試験を<両振り試験>と言います。
板材自体や板/板の接合体などでは、板厚が薄い場合は、圧縮力が加わると<座屈>が生じるため、片振りの引張り繰り返し試験が行われます。板厚が厚く<座屈>が生じなければ、引張りと圧縮の両振り繰り返し試験も可能です。
図12-57 繰り返し疲労試験における片振り試験と両振り試験
③ 繰り返しの応力波形における名称
図12-58は、繰り返し力の波形(ここでは正弦波)と力の名称を示しています。
負荷応力の最大値を<最大応力τmax>、最小値を<最小応力τmin>、振幅値を<応力振幅τa>、最大応力τmaxと最小応力τminの差を<応力範囲2τa>、正弦波の平均値を<平均応力τave>と言います。最大応力τmax = 平均応力τave ± 応力振幅τa となります。応力がせん断の場合は記号τを使いますが、垂直方向の引張り応力の場合はσを用います。
なお、一般に、応力振幅、最大応力、最小応力などと、<応力>という言葉が使われますが、図12-56のように、面接合の接着と点接合や線接合などを比較する場合などでは、<応力>では、それぞれの接合法で意味が異なり適当ではないため、図12-56のように、<荷重>で表示するのが良いでしょう。
図12-58 繰り返し応力の波形における名称(縦軸の数字は応力比Rが0.1の場合)
④ 応力比
[ 最小応力τmin/最大応力τmax ]を<応力比R>と言い、引張り/引張りの片振り試験では、0 ≦ R ≦ 1.0で、通常は0.1に設定されます。図12-58の縦軸の数値は、応力比Rが0.1で最大応力を1とした場合の応力の大きさの比率を表しています。
なお、引張りと圧縮を繰り返す両振り試験では、応力比は-(マイナス)となります。
⑤ 周波数
<周波数>は、1秒間での応力繰り返しの回数です。<周波数>が高いほど試験時間は短くなりますが、プラスチックや接着剤などの樹脂材料の場合は、周波数が高くなると分子摩擦によって温度上昇が生じてしまい試験としては不適です。そこで、接着剤やプラスチック材料などでは、一般に30Hz以下で行います。30Hzでは、1000万回(107回)繰り返すのに、3.85日かかります。
⑥ S-N線図
疲労試験の結果は、図12-59に示すように、<S-N線図>に書き出します。横軸は、破断するまでのサイクル数を対数で、一般に107サイクル(1000万回)以上まで表示します。縦軸は応力軸で、図12-59(左)のように、普通軸で示される場合と、(右)のように、対数軸で示される場合があります。縦軸を普通軸とした場合は、高サイクルになるにつれてS-N線は寝てきますが、縦軸を対数とした場合は、一般に、直線となります。
縦軸は、一般に<応力振幅>または<応力範囲>で示されますが、<最大応力>で示してもかまいません。<応力振幅>または<応力範囲>だけでは、<最大応力>の値は決まらないので、図には、必ず応力比Rを記入してください。
図12-59 S-N線図
S-N線図を見るときは縦軸の表記に十分注意しなければなりません。図12-60に示すように、縦軸を、<応力振幅>とするか、<応力範囲>とするか、<最大応力>とするかで、同じ大きさの応力でも数値は大きく変わります。例えば、応力比Rが0.1の場合は、縦軸を応力範囲で表示する場合は、応力振幅表示の場合の2倍に、縦軸を最大応力で表示する場合は、応力振幅表示の2.22倍の数値になります。縦軸がどの表示なのかを十分に確認しなければ、強度を倍、半分に間違ってしまいかねません。注意してください。
図12-60 S-N線図の縦軸の表記と数値(応力比R=0.1の場合)
なお、破壊までの繰り返し回数が104~105回程度以下は低サイクル疲労、それ以上は高サイクル疲労と呼ばれています。
図12-61に示すように、鉄鋼材料では、107(1000万)サイクル以上の繰り返しを行っても強度低下はせず、107サイクル以降はS-N線図は一定強度となります。この点から、107サイクルでの時間強度で<疲労限>とされています。ただ、金属でもアルミニウムなどの非鉄金属やプラスチックのような樹脂系の材料では、疲労限は現れません。そうなると、製品で107サイクル以上の繰り返しが加わる場合には、そこまでやってみなければならないことになりますが、1桁先までのデーターを取るには1個のサンプルで10倍の時間がかかります。そのような場合は、107サイクルまでのデータを、図12-61のように両対数で表示して、必要回数まで直線を外挿して強度を求めることになります。
図12-61 疲労限の有無
次回は、接着部の疲労特性に影響する因子について述べます。
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