≪接着・原賀塾≫

講師:(株)原賀接着技術コンサルタント

首席コンサルタント、工学博士

原賀康介

 

<第35回>   <前回第34回分>はこちら <次回第36回分>は未掲載

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講師:原賀康介

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12.7 疲労耐久性

(3)外力による疲労

(3-4) 接着部の疲労特性に影響する因子

① 凝集破壊率

 12-62は、二液室温硬化型変性アクリル系接着剤(SGA)でステンレス鋼板同士を接着した引張りせん断試験片での疲労試験の結果です。ステンレスの表面処理を変えて、初期(疲労試験前)の凝集破壊率を0%(界面破壊)、70%、100%の3段階に変化させたものです。縦軸は、初期の静的破断強度に対する最大負荷荷重値の割合で示しています。この結果から、凝集破壊率の上昇につれて疲労特性が向上することがわかります。凝集破壊率を高くすることは、疲労特性を向上させるためにも重要です。 

図12-62 疲労特性に及ぼす凝集破壊率の影響

(二液室温硬化型変性アクリル系接着剤(SGA)、ステンレス鋼板同士)

 

② 温度

 12-63は、二液型構造用ウレタン系接着剤でステンレス鋼板同士を接着した引張りせん断試験片での引張り/引張りの片振り疲労試験の結果です。測定雰囲気温度を0℃、25℃、30℃、40℃と変えています。縦軸は、応力振幅で表示しています。応力比R0.1です。この結果から、雰囲気温度が高くなるにつれて疲労特性が低下することがわかります。

図12-63 疲労特性に及ぼす温度の影響(二液型構造用ウレタン系接着剤)

 

 図12-64は、二液室温硬化型変性アクリル系接着剤(SGA)で、軟鋼板同士を接着した引張りせん断試験片での疲労特性です。周波数20Hzで、測定雰囲気温度を-15℃、25℃、50℃、80℃、100℃と変えています。この結果でも、雰囲気温度が高いほど疲労特性は低下しています。DMAtanδピーク値から求めた接着剤のガラス転移温度(Tg)は110℃ですが、Tg以下の温度でも、弾性率の低下に伴って疲労特性は低下しています。注意しましょう。

図12-64 疲労特性に及ぼす温度と周波数の影響(二液室温硬化型変性アクリル系接着剤(SGA))

 

高温で疲労特性が低くなる理由としては、

1)接着剤自体が軟らかくなり(弾性率が低下し)、接着剤自体のせん断力が低下した、

2)接着剤自体が軟らかくなり(弾性率が低下し)、加わっている平均応力により定荷重劣化(クリープ劣化)を起こしやすくなった、

3)接着剤/被着材界面での結合力が低下した、の三つが考えられます。

 一般に、破壊状態は、温度が高いほど界面破壊が増加していきます。これは、温度上昇による接着剤自体の凝集力の低下より、界面での結合力の低下が大きくなるためと考えられます。

 

疲労試験は、使用温度範囲の上限温度で評価することが必要です。

 

③ 周波数

   12-64には、80℃雰囲気において、周波数を20Hz1Hz0.1Hzと変えた場合の疲労特性の比較も示しています。この結果では、周波数が高いほど疲労特性が高くなっています。この理由としては、<第16回>の「1010.3 粘弾性体(4)速度依存性」で述べたように、粘弾性体に高速で負荷が加わると弾性体的な性質が強くなる(硬くなったような状態になる)、負荷速度が遅くなると粘性的な性質が強く表れる(軟らかくなったような状態になる)速度依存性によるためと考えられます。

   ただ、12-64では横軸は破断サイクル数なので、上記のよう考えてしまいますが、横軸を破断までの時間で示すとどうなるでしょうか。12-65の実線で表示した破断サイクル数での線(12-648020Hz1Hz0.1Hzの線と同じ)は、1Hzの線を基準として、破断までの時間で表示すると、20Hz0.1Hzの実線は破線の位置に移動します。その結果を見ると、20HZ1Hz0.1Hzとなっていて、上記の速度依存性も認められますが、その差は僅かです。そうすると、周波数依存性よりも時間依存性の方の影響が大きい、即ち、平均応力負荷による定荷重劣化(クリープ劣化)の影響が大きいと言えるでしょう。

   時間軸は、破断までに加えられたエネルギー量と考えても結構です。

図12-65 図12-64の80℃20Hz、1Hz、0.1Hzの結果の

破断サイクル数表示(実線)と破断時間表示(破線)の比較

 

④ 応力比

<前回>(3-2) でも述べたように、応力比R[ 最小応力τmin / 最大応力τmax ] のことで、引張り/引張りの片振り試験では、通常、応力比R0.1に設定されます。

 では、応力比が変化するとどうなるのでしょうか。<応力比>を変えると一言で言っても、応力振幅を一定として応力比を変化させた場合と、最大応力を一定として応力比を変化させた場合と、平均応力を一定として応力比を変化させた場合とでは、意味はずいぶん異なります。

【応力振幅が一定の場合】

 12-66に示すように、応力振幅を変えずに応力比R0.10.50.8と上げた場合には、応力波形は、【A】→【B】→【C】と平均応力も最大応力も高くなっていきます。平均応力も最大応力も高くなっていくので、12-67のように、応力比Rの増加につれてS-N線は左側(低破断サイクル数側)にシフトします。 

図12-66 応力振幅を一定として応力比Rを変化させた場合の応力波形

図12-67 応力振幅表示における応力比Rの影響

 

【最大応力が一定の場合】

 12-68に示すように、最大応力を変えずに応力比R0.10.50.8と上げた場合には、平均応力は、【A】→【B】→【C】と高くなっていき、応力振幅は小さくなっていきます。

応力比R1.0になると、【D】のように、応力振幅は0となり、平均の応力のみとなり、即ち、定応力耐久性(クリープ耐久性)試験ということになります。

図12-68 最大応力を一定として応力比Rを変化させた場合の応力波形

 

最大応力一定で、応力比Rを高くした場合、疲労特性が向上するのか低下するのかは、接着剤や界面結合部の定応力(クリープ)と変動応力に対する性能に依存すると思われます。クリープを起こしやすい接着剤では、応力比Rが大きくなると、平均応力の増加によってS-N線図は低サイクル側にシフトするでしょう。硬くて界面破壊しやすい接着剤の場合は、応力比Rが大きくなると、応力振幅は小さくなるので、疲労特性は良くなる場合もあるでしょう。

 

【平均応力が一定の場合】

平均応力を一定とする試験はほとんど行なわれませんが、12-69に示すように、平均応力を変えずに応力比R0.10.50.81.0と上げた場合には、応力波形は、【A】→【B】→【C】→【D】と最大応力も応力振幅も低くなっていきます。応力比R1.0になると、【D】のように、応力振幅は0となり、平均の応力のみとなり、即ち、定応力耐久性(クリープ耐久性)試験ということになります。

最大応力も応力振幅も低くなっていくので、応力比Rの増加につれて破断サイクル数は増加するでしょう。

図12-69 平均応力を一定として応力比Rを変化させた場合の応力波形

 

 金属材料は、よほどの高温や高応力でないとクリープは考慮する必要は無いので、平均応力は無視して応力振幅だけを考慮すれば良いのかもしれませんが、接着剤やプラスチックなどの樹脂材料においては、平均応力値も大きく影響します。接着の疲労試験においては、規格にこだわらず、実際の製品で加わる力の条件を十分に考慮して、平均応力値、最大応力値、応力振幅値を設定する必要があります。

 

⑤ 水分との複合劣化

 <第33回>12.6 水分と応力の複合による劣化」で、定荷重負荷状態で水分が作用すると複合劣化的に劣化が促進される、と述べました。この応力と水分の複合による劣化促進は繰り返し力の負荷でも生じます。注意しましょう。

 

 

 次回は、温度変化の繰り返しによる熱疲労について述べます。

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