≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
<接着生産技術>は、部品の状態、接着剤、作業環境などが時々刻々と変化する中で、その変化を的確に捉えて、「接着設計」で規定された<最適条件と許容範囲>になるように、組立現場において実施される<プロセス最適化と検査の技術>です。接着される部品の状態、接着剤、作業環境などは時々刻々と変化しているので、接着工程ごとにその変化をいかに的確に捉えて対処していくかが、高い品質で効率的な組立を行う基本となります。
<第2回>で述べたように、<接着生産技術>は、(1)部品管理、(2)材料管理、(3)工程管理、(4)設備管理、(5)検査・品質管理などの要素技術で構成されています。前工程までの作業は正しいか、規定された許容範囲内の条件で作業がされているか、実施した作業は適切だったかのチェック法を決めます。トラブル時の対応手順もこの段階で決めておきます。各要素技術では次のようなことを検討します。
図4-2(再掲) 接着生産技術と要素技術
◆受入検査の項目と基準値の決定(材料に間違いはないか、寸法は公差内か、接着面の状態は適切かなど)。
◆受入検査の方法と記録方法の決定。
◆不適切品への対処法の決定。
◆保管の環境・期限の設定。
◆保管状態の確認。
洗浄剤、プライマー、接着剤などは化学製品であり、複数の成分からなる混合物です。そのため、材料のロット、保管の環境・期間、組立作業場の環境などで性状・物性が常に同じとはいきません。また、接着剤やプライマーは種類によって反応機構が異なるため、管理項目も異なります。材料管理技術は、材料の成分、性状・物性、反応機構などを理解した上で、材料の変化を敏感に捉えて、常に最適な条件で使用できるように管理する技術です。
◆受入検査の項目と基準値の決定(前処理から接着までの工程で用いる全ての材料が対象)。
◆受入検査の方法と記録方法の決定。
◆不適切品への対処法の決定。
◆保管の環境・期限の設定。
◆開封後の使用期限、再保管の方法・条件の決定。
◆保管状態の確認。
各工程での作業が、「接着設計」段階で規定された最適条件と許容範囲内に入っているかどうかの管理を行う技術です。前工程までの作業がきちんと出来ているか、その工程で行った作業は後工程に問題はないかの確認・管理も工程管理の担当項目です。接着剤やプライマーなどは化学品であるため、ある工程でトラブルが発生した場合、作業場の温度や湿度などによって対処法や対処に許容される時間は変化します。材料の成分、物性、反応機構などを理解した上で、適切な対処を行うための手順作成も工程管理の重要項目です。
◆接着前処理工程
・準備段階 部品の材質、寸法の検査。材料の使用期限の確認、状態の確認
・前処理 薬液・砥粒、器具・用具、設備、温度・湿度などの状態確認と管理
・処理後 外観、処理むら、バリ等の有無、接着面の粗さ、表面張力などの確認
処理済品が再汚染しない置き方を検討する
・接着面を素手で触らないための工夫
◆キッティング
・キッティング後の部品をのせるトレーに埃や汚れがないことを確認する
・部品の外観、処理むら、バリ等の有無、接着面の粗さ、表面張力、などの最終検査も行う
・部品の合い具合のチェック 接着剤を塗布しないで合わせ具合のチェック
◆プライマーの塗布
・プライマー塗布面の状態を確認する
・プライマーが指定の濃度に希釈されていることを確認する
・プライマー塗布用具の確認
・プライマーは指定された方法で指定された量を塗布する。塗りすぎの防止法も検討。
・十分に溶剤を乾燥させる
◆接着剤の塗布
・作業場の温湿度管理
・接着面の状態の確認
・塗布ノズルからの接着剤の吐出状態を確認する(増粘していたら捨て打ち)
・吐出した接着剤の状態の確認(色、流れ方、気泡の巻き込み、糸の引き方、など)
・室温硬化型接着剤は可使時間の管理は重要(夏季高温時は可使時間は短くなる)
・溶剤系接着剤は、一度に厚塗りしてはいけない(溶剤が揮散しにくい)
・瞬間接着剤は必要最小限の塗布量にする(白化、プラスチック部品のクレージング防止)
・嫌気性接着剤は塗布量、塗布位置に注意してはみ出しをなくす
・接着部以外への付着を防ぐ
◆貼り合わせ、位置調整
・貼り合わせの短時間化と位置調整の簡素化のため位置合わせ治具を用いる
・治具には接着剤の硬化物などの付着がないことを確認すること
・接着剤の塗布状態を確認する
・アクチベータ併用で嫌気性接着剤を使う場合は短時間で作業を完了すること
・瞬間接着剤や両面テープ、コンタクトセメントなどは貼り合わせ後の位置調整は不可
◆加圧・固定
・貼り合わされた部品の状態を確認する
・加圧治具の加圧面に異物や硬化した接着剤の付着がないことを確認すること
・二度加圧は避ける(空気の巻き込みの原因となる)
・加圧力は部品を変形させない範囲まで(部品が変形した状態で硬化すると、接着部にスプリングバック力が作用する)
※加圧力は、部品の公差を考慮して、接着設計の工程設計で最適値と許容範囲を決めておくこと
◆硬化
・加圧・固定の状態を確認する
・加熱硬化の場合は、加熱炉の温度計測と管理
・硬化終了後の冷却速度の管理
・光硬化型接着剤の場合は、照射強度の計測と管理
◆加圧解除
・接着された部品の状態を確認する
位置精度、はみ出し量、硬化の状態、はく離の有無、部品のクラック、など
・治具への接着剤の付着の有無の確認と清掃
◆後工程
・硬化終了から後工程までの部品の置き方と放置時間の管理
◆トラブル時の対処
・ある工程でトラブルが生じた場合の、各プロセスでの対処法を決める
・トラブル時の対処法の訓練の実施
「設備管理」は、設備や冶工具、器具などが常に最適な作業条件を維持できるように調整・管理する技術。設備が順調に稼働していたとしても、例えば、二液の配合比のずれ、混合の程度、塗布ノズル内の接着剤ゲル化物の付着状態、接着剤内への気泡の混入状態などは変化していることもある。使用する材料の成分、性状・物性、反応機構を理解した上で、それらの変化を見分けられる『診断能力(予知能力)』も必要。
◆設備・治工具・器具などが許容条件を超える要因を明確にし、管理する方法を決める。
最終工程での検査ではなく、各工程での操作・条件を数値化し、各工程にフィードバックする方法を決めます。教育・指導・訓練のプログラムも作成します。
◆トラブル時の原因究明に必要なデーターを決めて、リアルタイムにデーターを取得・分析・管理する。
◆基準値から外れていた場合には、次工程に流さずに、前工程に遡って原因を究明して対策を講じる。
◆トラブル時の対処法の訓練を実施する。
◆抜き取り検査の規準を決める。簡便に試験ができるようにな検査方法や検査装置の開発も必要。
◆作業者の教育・訓練と技量の認定。
◆重要部分の接着の場合は、上級認定作業者による指名作業工程とすることも検討。
◆【変更点管理】工程改善のために、作業要領書で規定された内容から何らかの変更を行う場合は、工程管理者、工程設計者とともに変更内容の適否を吟味し、変更点通知書に記録、承認後に、はじめて変更を実施する。このステップを義務付けて管理することが重要。"
<第2回>でも述べましたが、<接着生産技術>は実際の製造工程での管理の技術ですが、「接着設計」が全て終了した段階から検討を始めるのではなく、<接着生産技術>と<接着設計技術>は、各要素技術の技術者が連携し合って接着設計技術と接着管理技術を有機的に結びつけて、コンカレントに相互にリンクして技術の作り込みをしていくことが必要です。
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ここまで、<接着設計技術>と<接着生産技術>における要素技術での検討内容を書いてきましたが、最適化を検討していくときには<目標値>が必要です。
次回は、高信頼性・高品質接着達成のための開発段階での<目標値>について述べたいと思います。
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